青い梟の輪郭

感じたことを括り直すための内的な語りや対話です。

【フィンランド滞在記9】 JÄTTÖMAAとホームパーティ

今から2週間ぐらい前にジョアキムに勧められて、JÄTTÖMAAというフェスのステージに出させてくれないかとYoutubeのURLを添付して主催者にメールした。
主催者からの返事は以下のようなものだった。

「残念ながらステージはもう埋まってます。でも、たくさんのミュージシャン達が路上で演奏すると思うので、あなたも是非、彼らと一緒に自由に弾いてください!ギャラは払えませんが、フードやスナックはタダです!楽しんでね!」

 

 というわけで、色々な楽器弾きと交流できるんだと思ってワクワクしながら(半分ドキドキしながら)、ジョアキムと二人、バイオリンを持って行った。

7月23日の話。


イハラから車をぶっ飛ばして1時間強、コウボラという町に着く。
(車のオーディオが、調子悪くて鳴らないけど急ハンドルをきるとたまに直るという謎仕様で、道中、ふざけて急ハンドルをきりまくるジョアキム。酔った。最近、彼のこういう気まぐれに好き放題やるとこに若干イラっとくるときがある。結果的には笑えるんだけれども)

 

町に着くや否や、ジョアキムは言う。
「ちなみに俺はこの町のどこでフェスが行われてるか知らない!さあ、窓を開けて大きな声でJÄTTÖMAAはどこですか?と叫ぶんだ!」

そんなのはいやだ。

聞こえないふりをしていたら、なんでよりにもよってそいつに聞くんだって思うぐらい屈強でイケイケな青年に道を尋ねるジョアキム。
しかし、青年は見た目に反してとてもやさしく丁寧に教えてくれて、僕らはなんとか会場に到着できた。
駐車場は広く、人も多く、賑わっていて、なかなか楽しそうなフェスだ。
いざ入場。

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結論から言うと、かなりショボかった。

ライブステージの音楽は比較的ハイレベルだった。
ただそれ以外に関しては、日本の高校の学祭の方がクオリティ高いぐらいだった。

出店が少なすぎる。見た限り5つ。
しかも何を提供してるのかパッと見じゃまず分からない。
加えて簡易野外カフェみたいなのが1つ。
それなのに、ステージは数カ所に分かれているため全体の規模はやたら大きい。

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そして、最も重要なことに気が付いた。
誰一人として路上演奏なんてしてない!
おい!今すぐ主催者呼んでこい!

 

とりあえずひと通り見て回り、路上演奏も考えたけどいまいちモチベーションが上がらず、そのうえ今にも雨が降りそうだったから帰ることにした。

 


その夜、サリーのパーティに参加した。
サリーとは、フィンランド人の旦那と共にイハラから2km離れた場所に住んでいるアメリカ人女性で、この夏イハラに滞在している。
彼女は、マイペースに喋りたいだけ喋って突然去っていくようなタイプの女性だけど、悪い人ではない。物事の変化に柔軟すぎるイハラの中にあって、サリーの保守性はわりと重要な役割を果たすこともある。

そう、サリーは保守的だ。

先日、キッチンのハエがあまりにも鬱陶しかったので、独りのときに新聞紙丸めてほぼ全部(30匹以上)殺した。これを誰よりも喜んだのはサリーだった。実は耐え切れなかった、と後になって彼女は語った。

やっぱりなと思った。カンファレンスの時から分かっていた。

自然の中で柔軟に生きるフィンランド人の暮らしが好きで、自分もそうあろうとしてるけどいまいちできない。どうしても守りたい部分、譲れない部分がある。でもそれは彼女にとって彼女自身の誇りであり、決して負い目ではない。

分かりやすく言えば、綺麗好きなわけだ。
玄関開けっぱなしにしただけでほとんど無限にハエやら蚊やらが入ってくるこの大自然の中で生きることを選んでいるにも関わらず。

でも、キリがないのは分かっちゃいるけど、この鬱陶しいハエをどうにかすることを諦めきれないというその気持ちは、とてもよく分かる。
清潔感に関して同じようなレベルの満足度を求めているという点で、僕とサリーは仲間だ。


パーティは、気持ちのいい庭でのホームパーティで楽しかった。
バイオリンを弾いたら予想以上に喜んでもらえて、色んな人と話すこともできた。
ゴミ箱をドラム代わりにして一緒に弾いてくれたペテというワイルドな男と仲良くなった。
ペテはラップランド出身だ。
9月にオーロラ見たいから北に行くかも、と言ったら、
「俺もちょうどその辺りに北に行く予定だ。ラップランドの最果てだ。なんだったら連絡してこいよ。最高の体験をさせてやるぞ。1週間、屋根のない暮らしをする覚悟があるならな!ガッハッハ!」
とペテは言った。

ラップランドの最果てで屋根なし1週間。
ちょっとまだその覚悟はない。けど、非常にありがたく貴重な宛てができたのは確かだ。

続けて彼は言う。
「そこではお前は木々について奏でるんじゃない。木々になって奏でるんだ。トナカイについて奏でるんじゃない。トナカイになって奏でるんだ。川について奏でるんじゃない。川になって奏でるんだ」

ハッとさせられるようなとても印象的な言葉だった。
サミ族のヨイクにも通ずる認識なのかもしれない。
音楽にしても生活にしても、それらは森との対話の産物だ。
ただ、人と森とは分割された個々の何かではない。
その対話は常に一体的なんだろう。


蚊なんか気にしてないで、もっと森に行こうと思った。


ちなみに、サリーはアイリッシュの名曲サリーガーデンを歌えるので、パーティのときに弾いた。
サリーの家の庭でサリーがサリーガーデンを歌った。
後から気付いてなんか笑えた。