青い梟の輪郭

感じたことを括り直すための内的な語りや対話です。

【自然との対話についての対話1】 アゲハチョウ

レモンの木が枯れた。

 

そんなにさっぱりした言い方でいいわけ?

 

だってもうどうしようもないし。

 

でも君のせいじゃん。枯れたの。

 

このところ無関心だったのがいけなかったか。

 

いや、そうじゃなくて、アゲハチョウの幼虫を育てすぎでしょ。どれだけたくさんの枝葉を切り落としたと思ってんの?

 

それに関してはむしろ、ほどよい剪定になったんじゃないかと思ってる。放っておいて無茶苦茶に喰われるよりも遥かにいいはずだから。

 

でも、どんどん増えてたじゃん。

 

まあ、確かに。毎年、卵を産みにくる成虫が増えていた。ただ、その分、カマキリとか大きめのクモとかトカゲも住みつくようになっていた。バランスはとれていたと思う。……ていうか、去年と今年は幼虫を育てなかったしね。枝葉を切り落としたことが関係あるとは思えない。

 

だったらなんで枯れたの?カミキリムシのせい?

 

カミキリムシがヤバかったのは二年前ぐらいだからそれとこれとは関係ない気がする。

 

なんで枯れたんだろう。

 

なんでそんなに原因にこだわるの。

 

ふつう気になるでしょ。今年の夏もアゲハチョウが何匹か卵を産みに来てたのに、葉っぱは一枚もない。かわいそうだよ。

 

君はアゲハチョウを生かしたいのか殺したいのかどっちなんだ。

 

みんな生きててほしい。

 

そんなことありえるわけないでしょ。

 

そういう現実的な話じゃなくて。

 

まあ言いたいことは分かるよ。レモンの木が枯れるっていうのは、ただ一本の木が死ぬというだけのことを意味しない。ひとつの世界が滅んだに等しい。多くの生きものたちがあの木を住処にしていたから。

 

一日中眺めていられた。

 

でも、そんなレモンの木も、より大きな世界の一部でしかない。

 

それはそれ、これはこれだよ。

 

それもそうか。確かに、アゲハチョウの幼虫はその一匹一匹が本当に可愛らしかったことを思いだした。そんな風に虫と向き合うとき、より大きな全体も何もないのかもしれない。

 

そうだよ。蛹から羽化して飛び立っていくまでの過程はいつみても感動的だった。

 

飛び立つまでずっと見守ってたこともあった。向こうからしたらいい迷惑だったかもしれないけど。

 

上手く羽化できなかった子もいた。例えば、あの出来事を全体の一部だと切り捨てることなんて出来ないでしょ。

 

確かに。でも、それを失敗みたいに言うのは違うかな。

 

いやいや、君がセッティングを怠ったから上手く羽化できなかったんでしょ。

 

成功とか失敗とか、そういう話にしたいならそうなるけど、そうじゃない見方もある。あの子は飛べなかったけど、確かに生きていた。その点では他の子たちと変わらない。勝手に特別な結果になってしまったと認識して、勝手に同情するなんてのは気持ち悪いだけだ。

 

別に気持ち悪くなんかないよ。

 

いや、あのアゲハチョウがそう言ってた。

 

アゲハチョウが?

 

うん。同情とか気持ち悪いって。

 

そんなのただの妄想じゃん。

 

(つづく)